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名古屋地方裁判所 昭和60年(ヨ)682号 決定

一 まず、申請人の被保全権利について検討する。

1 申請の理由1(一)(本件意匠権の存在)は、当事者間に争いがなく、同1(三)(被申請人らのイ号物件の製造、販売)も、当事者間に争いがない。

2 申請人は、申請の理由1(二)において、同欄にaないしfに記載のとおり、本件登録意匠の外観形状の説明をするのに対し、被申請人らは、被申請人らの反論2(一)欄の(1)ないし(9)に記載のとおり本件登録意匠の外観形状の説明をするところ、両者は、その説明の仕方において相違しているので、まず、その点について考えてみるに、右各説明は概ね申請人の説明が概括的であるのに対し、被申請人らの説明は、細部に亘り精密であることの違いはあつても、いずれも本件登録意匠の説明として誤つているものと認むべき点はないということができる。

従つて、右各説明のいずれに拠つて、本件登録意匠とイ号物件の対比をなしても差し支えないものであるが、別紙イ号物件説明書が被申請人らの本件登録意匠の外観形状の説明に対応するものとしてイ号物件を説明したものであることは、被申請人らの右説明と、イ号物件の説明書を対比すれば明らかであるから、前記のとおり説明として誤つているものでない以上、本件登録意匠の外観形状の説明としては、被申請人らの説明に拠つて本件登録意匠と、イ号物件とを対比することが便宜である。

そこで、以下、被申請人らの説明に倣い本件登録意匠の外観形状を説明することとして、本件登録意匠とイ号物件との意匠の類否判断をすることとする。

なお、イ号物件が一般家庭における水道の蛇口に直結せしめて、該蛇口開放による水道水をフイルター部に導入して水道水特有のカルキ臭を消去したり、大腸菌その他の雑菌等有害物質を除去せしめる浄水器であることは別紙イ号物件の説明に記載のとおりであるところ、本件意匠権における意匠に係る物品である「整水器」が右と同様の目的を有するものであることは疎甲第三号証添付の意匠登録願中の意匠に係る物品の説明により明らかであるから、イ号物件は本件登録意匠における意匠に係る物品と同一の物品である。

3 本件登録意匠とイ号物件の共通点及び相違点は、次のとおりである。すなわち、

(一) 整水器(浄水器)は、整水器(浄水器)本体と切替バルブより成ること。

(二) 整水器(浄水器)本体は、上カバー体と下カバー体より成ること。

(三) 上カバー体は、全体を上方縮径の長筒状とし、下カバー体は全体を下方縮径の短筒状としていること。

(四) 下カバー体の側壁部にして、吐水部との反対側には周面螺子孔付き筒状の接続部が突出せしめて成ること。

(五) 切替バルブは、三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成ること。

の各点において本件登録意匠とイ号物件の意匠は共通し、

A 本件登録意匠においては、整水器本体の上カバー体と下カバー体は、高さ対比は7対3、高さ対横幅対比は2対1にて成るに対し、イ号物件のそれにおいては、高さ対比は6・5対3・5、高さ対横幅対比は3対2にて成ること。

B 本件登録意匠においては、上カバー体は透明材質にて成るのに対し、イ号物件においては上カバー体は表面を美麗なる銀色メツキした不透明材質にて成ること。

C 本件登録意匠においては、上カバー体はその最下端より全体の1・3の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いで全体の1・7の部位まで45度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体7・9の部位まで84度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで55度の角度で内方テーパー線を形成して成るに対し、イ号物件においては、その最下端より全体の1・9の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いでやや内方位置より全体9・1の部位まで85度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで上端外線より大きく隔てた内方位置より全体9・7の部位まで23度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで垂直線なる水抜き用エアバルブを形成して成ること。

D 本件登録意匠においては、上カバー体の頂端は平坦にて成るのに対し、イ号物件においては上カバー体の頂端には、中央に平面三分の一なる突起形状体が形成して成ること。

E 本件登録意匠においては、下カバー体はその最上端より全体の2・3の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体の3・2の部位まで30度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体6・8の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成るに対し、イ号物件においてはその最上端より全体の1・1の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体7・7の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成ること。

F 本件登録意匠においては、バルブボデイは円筒形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は円筒形状にて成り、下カバー体との取付部は短く袋ナツトと同高にて成るに対し、イ号物件においては、バルブボデイは略立方体形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は六角形状にて成り、下カバー体との取付部は内側の取付筒が長く外方に突出して成ること。

G 本件登録意匠においては、切替レバーは飛行機の垂直尾翼に似た形状にて成るに対し、イ号物件においては、切替レバーは中央部を穿つた特異な形状にて成ること。

の各点において本件登録意匠とイ号物件の意匠は相違するものである。

4 まず、右共通点について考えるに、第四一三六七四号意匠公報(疎乙第一号証に添付のもの)によれば、(ア)整水器(同公報における物品は「濾過器」であるが、右は本件登録意匠の意匠に係る物品である「整水器」と同一の物品である。)が、整水器本体と切替バルブより成り、(イ)整水器本体は上カバー体と下カバー体より成り、(ウ)下カバー体の側壁部からこれと一体となつた筒状の接続部が突出せしめて成り、(エ)切替バルブは、三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成る各構成は公知であること、前記共通点中、右公知意匠と異なる点は、(カ)上カバー体の形状(公知意匠は、上方縮径の長筒状でなく、円筒の長筒状である。)、及び下カバー体の形状(公知意匠は下方縮径の短筒状でなく、円筒の短筒状である。)の差異、(キ)接続部の孔の周面には螺子が存しないことの二点であることの各事実が一応認められる。

してみれば、右公知意匠と共通する(ア)ないし(エ)の各点は、いわばありふれた意匠とみるべきであるから、この点を本件登録意匠の要部ないし特徴とみることはできない。従つて、右(ア)ないし(エ)の各点は本件登録意匠の対比上はさして重要とはいえない。

申請人は、本件登録意匠が示す形状はありふれた形状ではない旨主張するが、右主張は採用しない。

また、右(カ)及び(キ)について考えるのに、上カバー体と下カバー体について本件登録意匠と同様に上カバー体が上方縮径の長筒状であり、下カバー体が下方縮径の短筒状となつている整水器は、本件登録意匠出願前において存在したと認めるに足りる疎明がないこと、上カバー体と下カバー体が本件登録意匠中に占める割合が非常に大きいこと等を勘案すれば、右(カ)が共通することは、本件意匠とイ号物件の意匠の類否判断をなすうえでは重要であるということができる。一方、接続部の孔の周面に螺子が存するか否かは、右部位が本件登録意匠中に占める割合からして、さして類否判断上、重要なものということはできない。

5 次に、前記相違点についてみるに、

(一) 本件登録意匠における整水器本体の上カバー体と下カバー体の各形状とイ号物件のそれとの差異(前記3のA、C、D、E)は、前記のとおり、本件意匠とイ号物件の意匠にあつては、上カバー体と下カバー体全体の概括的な形状において既に共通すること、右が公知意匠と異なる構成であつて、意匠の類否判断上、重要と考えられることからすれば、右上カバー体と下カバー体の概括的な形状からみると微細な部分的形状に関する前記3のA、C、D、Eの各相違が本件の対比上、それ程重要なものとは認めることができない。

(二) 本件登録意匠においては、上カバー体は透明材質にて成るのに対し、イ号物件においては上カバー体は表面を美麗なる銀色メツキした不透明材質にて成る点(前記3のB)については、上カバー体が本件意匠中に占める割合を勘案すれば、重要な差異であるということができる。

申請人は、意匠法において、透明は形状でも模様でも色彩でもなく、色彩に準じた扱いをされるにすぎないから、透明か否かということは、意匠の類否を判断する上に極めて比重の小さなものである旨主張するが、物品が彩色されている場合におけるその色彩の差異と物品が透明か否かということは同列に考えることはできないのであつて、透明か否かということが意匠の要素(形状、模様、色彩)の分類上、いずれに含まれるものと考えられるかということと、それが物品の美感にいかなる影響をもたらすかということとは別個の問題であり、また、意匠法上も、意匠を現わす物品において透明個所がある場合には、それを願書の意匠の説明の項に記載しなければならないとされており(同法六条八項)、透明か否かを意匠の同一性を判断する要素の一つとしていることが明らかであるから、右申請人の主張は採用し難い。

(三) 本件登録意匠のバルブボデイ及び切替コツクの各形状及びイ号物件のそれとの相違(前記3のF、G)については、前記のとおり、切替バルブが三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成る各構成は公知であること、及び本件登録意匠中に切替バルブが占める割合が少ないことからすれば、右(二)において判断した上カバー体の材質の相違に比すれば、その重要性は低いものといわざるを得ないが、類否判断上は、無視し得ない相違点というべきである。

6 以上説示の共通点及び相違点からすれば、本件登録意匠とイ号物件は、前記3の(一)ないし(五)に記載の共通点を有するものの、そのうち、前記4の(カ)を除く各共通点は意匠の類否判断上さして重要でない部分についてのものであり、一方、前記3のAからGの相違点については、上カバー体が透明であるか否か(前記3のB)、バルブボデイの形状(前記3のF、G)は意匠の類否判断上重要な部分についての相違であるから、右共通点及び相違点を全体的に観察すると、本件登録意匠とイ号物件の意匠は、その要部において相違し、相互に非類似のものとみるのが相当である。

7 してみると、イ号物件は、本件意匠権を侵害するものではないから、申請人ら主張の被保全権利はその存在の疎明がないことに帰着し、疎明に代えて保証を立てさせることも、もとより相当でないから、本件申請は、これを却下することとする。

〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。

第一 当事者の求める裁判

一 申請の趣旨

1 被申請人らは別紙図面及び説明書記載の整水器(製品名セラフイツク、ヘルスピユアイオン―以下「イ号物件」という。)の製造販売及び頒布をしてはならない。

2 被申請人らの肩書地及び営業所に存在するイ号物件に対する被申請人らの占有を解いて、所轄地方裁判所執行官に保管させる。

3 執行官は封印その他右保管にかかることを公示するために適当な方法をとらなければならない。

二 申請の趣旨に対する被申請人らの答弁

申請人の本件申請を却下する。

第二 当事者の主張

一 申請の理由

1 被保全権利

(一) 申請人は、次の意匠権(以下「本件意匠権」という。)を有し、本件意匠権に基づき家庭用及び業務用の整水器(製品名アルミツク)を製造し販売している株式会社である。

意匠に係る物品 整水器

出願      昭和五七年九月一八日

出願番号    昭和五七年意匠登録願第四二六五三号

登録      昭和五九年三月一二日

登録番号    意匠登録第六二七〇九七号

登録意匠    別添意匠公報の図面代用写真のとおり

(二) 本件意匠権に係る登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)の特徴は次のとおりである。すなわち、本件意匠権の意匠に係る物品は「整水器」であり、その機能及び用途は、一般家庭における水道蛇口に直結せしめて、該蛇口開放による水道水をフイルターに導入して水道特有のカルキ臭を消去したり、大腸菌その他の雑菌等有害物質を除去せしめる物品であるところ、本件意匠の創作性としては、形状を相違する蛇口形式に対しても対処可能にすべく、整水用フイルターを内蔵せしめる目的の整水胴部と切替コツクが連結された構成及び機能を外観に現わされた点にあるのであり、具体的には、(ア)整水胴部が本来の水道蛇口の操作に邪魔にならないこと、(イ)切換コツクの操作性が良いこと、(ウ)整水胴部は台所壁面に近接設置出来ること、(エ)整水胴部が台所の状況により蛇口の左右いずれの位置に設置した場合にも整水の放水口は実用的な位置にあることの各機能を実現するために、

a 整水フイルターを内蔵する目的の整水胴部は、全体を円筒形状とし、胴部全体高の四分の一程度の高位とする短い下方容器部と、それに全体高の四分の三程度の高位とする高い蓋部を螺合固定する形状としている。

b 蓋部は頭頂面を平面形状にし、側周周面は上方から五分の四程度を円錐形状とし、五分の一程度の残り下方部を円筒形状に成し、環状折曲線にて連続せしめた形状としている。

c 下方容器部において、正面視する底面の左側端部に、整水を放水する下端放水口が設けられ、直下方向を向く形状としている。

d 同底面において、底面視する下端放水口と底面中心を結ぶ直線上の対向部に当たる同側周部にト字形切替コツクを螺合連結した形状としている。

e 前記蓋部における頭頂面平面部と円錐形側周部との交点は面取りされた形状としている。

f 前記蓋部は、透明である。

の各特徴を有するものである。

(三) 被申請人らはイ号物件を製造、販売している。

(四) イ号物件は別紙図面及び説明に記載から明らかなとおり、前記(二)のaないしdの各特徴については全く同一形状を呈し、eに示す面取り形状が殆んど無に等しく相違すること、fに示す蓋部(上カバー体)は不透明であることが相違すること及びg上カバー体の頂端中央に平面径三分の一なる突起形状体が付加設置されていることが相違するにすぎない。

そして、本件登録意匠とイ号物件とは、前記機能、用途を全く共通にする物品であると共に、その機能、用途を具体的にデザインした基本的な意匠構成である前記六項目共通点部分も全く共通し、その部品毎の形状について僅かな違いがあるとしても、本件登録意匠を実施した製品が市場で斬新な多機能を売り込む物品である以上、構造や機能の向上の為、設計された意匠デザインは、登録意匠の範囲を枝葉抹節な部品毎の類否観察に依存するのではなく、これら優れた機能を有する商品を入手しようとする購買者は機能を前提とする形状構成に着眼していることが容易に理解出来ることから見れば、アールの大小、段付きの有無、一部分が透明か不透明か等は全体が似ている以上、比重の小さなものであつて、「一般の需要者」は、時と場所を異にすると、登録意匠製品と思いながら、イ号物件を購入するおそれは極めて高いと言わざるを得ない。このような「おそれ」があれば類似である。

また、意匠の類否の判断要素として最も重要な要素は形状であり、その形状がありふれた形状つまり基本的形状と言われる様な場合には、その形状及び模様の結合、或いは形状及び色彩の結合を類否の判断基準としてとらえねばならないものであるが、前記のとおり、本件登録意匠が示す形状は、過去には無かつた機能、効果をもたらす創作の上に成立するものであり、本件登録意匠の形状は基本的形状ではあり得ない。

してみれば、前記の相違は意匠の類否判断において重要なものではない。

なお、蓋部分(上カバー体)については、意匠法において「意匠とは物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて視覚を通じて美感を起こさせるもの」と言つており、透明は形状でも模様でも色彩でもなく、色彩に準じた扱いをされているに過ぎない。色彩に準ずるものとして一つは金色、銀色、クローム色等の金属色であり、他は透明である、という法的判断基準の立場にあるのであるから、この相違は意匠の類否を判断する上に極めて比重の小さなものである。

従つてイ号物件の意匠は、本件登録意匠と類似するものであり、本件意匠権を侵害するものである。

2 保全の必要

前記のとおり、申請人は本件意匠権に基づき家庭用及び業務用の整水器(製品名アルミツク)を製造し販売しているものであるところ、被申請人らのイ号物件は、その形状は申請人のアルミツクをまねたものの技術及び資材において著しく劣るため、製品として種々欠陥が目につく。

被申請人らの粗悪製品が申請人の信用低下となるなどのおそれも出はじめている。被申請人らは、申請人の警告を無視して製造販売を継続しており、このまま本案判決の確定を待つにおいては、到底回復不能の著しい有形・無形の損害を蒙るので本申請に及ぶ。

二 申請の理由に対する被申請人らの認否・反論

(認否)

1 申請の理由1 (被保全権利)について

(一) 申請の理由1(一)は認める。

(二) 同1(二)は争う。

申請人の本件登録意匠に関する説明は正確性において厳密さを欠くものである。

(三) 同1(三)は認める。

(四) 同1(四)は争う。

但し、eに示す面取り形状が殆んど無に等しく相違すること、fに示す蓋部(上カバー体)は不透明であることが相違すること及びg上カバー体の頂端中央に平面径三分の一なる突起形状体が付加設置されていることが相違することは認める。

2 申請の理由2は争う。

申請人は、昭和五九年初めから、本件登録意匠にかかる整水器を全く販売していない。本件登録意匠にかかる整水器にはエア抜き用の空気調整弁がついていないか、この空気調整弁がついていないと、塩素が除かれた水が中にたまつて雑菌が増殖することになるので、これを防ぐために、空気調整弁をつけることが必要不可欠となるのであり、現に申請人が広告販売している整水器は、いずれもこの空気調整弁がついている、本件登録意匠にかかる整水器とは別個の形状のものである。

従つて、申請人の本件申請には保全の必要がない。

(反論)

1 本件意匠登録の無効性について

(一) 本件意匠登録は、いわゆる冒認者によつて出願がなされ、登録されたもので無効原因を有するものである。

すなわち、本件意匠は、ユーエフ産業株式会社が創作したもので申請人が創作したものではなく、また意匠登録を受ける権利を承継しているものでもない。

(二) 仮に、本件意匠が申請人とユーエフ産業株式会社との共同創作にかかるとしても、申請人は、ユーエフ産業株式会社に無断で、申請人が独自に創作したとして登録しているものであつて、同じく無効原因を有するものである。

2 イ号物件の形状と、本件登録意匠の形状とは、明白にその形状を異にするものであり、イ号物件の形状は、本件登録意匠の登録範囲に属しないものである。その理由は、次に述べるとおりである。

(一) 本件登録意匠の形状について

本件登録意匠の外観的形象は次のとおりである。

(1) 整水器は、整水器本体と切替バルブより成ること。

(2) 整水器本体は、高さ対比が7対3なる上カバー体と下カバー体より成り、又高さ対横幅は2対1の対比にて成ること。

(3) 上カバー体は、透明材質にて全体を上方縮径の長筒状とし、その最下端より全体(以下、上カバー体全体を一〇として算出する)の1・3の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いで全体1・7の部位まで45度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体7・9の部位まで84度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで55度の角度で内方テーパー線を形成して成ること。

(4) 上カバー体の頂端は、平坦にて成ること。

(5) 下カバー体は、全体を下方縮径の短筒状とし、その最上端より全体(以下、下カバー体全体を一〇として算出する)の2・3の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に (尚、厳密には下カバー体の最上端には、上カバー体に螺合するフランジが形成されている)、次いで全体3・2の部位まで30度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体6・8の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成ること。

(6) 下カバー体の側壁部にして、吐水部との反対側には周面螺子孔付き筒状の接続部が突出せしめて成ること。

(7) 切替バルブは、三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成ること。

(8) バルブボデイは、円筒形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は円筒形状にて成り、下カバー体との取付部は短く袋ナツトと同高にて成ること。

(9) 切替レバーは飛行機の垂直尾翼に似た形状にて成ること。

(二) イ号物件の形状について

イ号物件の形状は別紙イ号物件説明書に記載のとおりである。

(三) 本件登録意匠と、イ号物件との対比

(1) 本件登録意匠とイ号物件との共通点は次のとおりである。

(イ) 浄水器は、浄水器本体と切替バルブより成ること。

(ロ) 浄水器本体は、上カバー体と下カバー体より成ること。

(ハ) 上カバー体は全体を上方縮径の長筒状としていること。

(ニ) 下カバー体は全体を下方縮径の短筒状としていること。

(ホ) 下カバー体の側壁部にして、吐水部との反対側には周面螺子孔付き筒状の接続部が突出せしめて成ること。

(ヘ) 切替バルブは、三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成ること。

(2) 本件登録意匠と、イ号物件との相違点は、次のとおりである。

(イ) 本件登録意匠においては、整水器本体の上カバー体と下カバー体は、高さ対比は7対3、高さ対横幅対比は2対1にて成るに対し、イ号物件においては高さ対比は6・5対3・5、高さ対横幅対比は3対2にて成ること。

(ロ) 本件登録意匠においては、上カバー体は透明材質にて成るに対し、イ号物件においては上カバー体は表面を美麗なる銀色メツキした不透明材質にて成ること。

(ハ) 本件登録意匠においては、上カバー体はその最下端より全体の1・3の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いで全体の1・7の部位まで45度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体7・9の部位まで84度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで55度の角度で内方テーパー線を形成して成るに対し、イ号物件においてはその最下端より全体の1・9の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いでやや内方位置より全体9・1の部位まで85度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで上端外線より大きく隔てた内方位置より全体9・7の部位まで23度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで垂直線なる水抜き用エアバルブを形成して成ること。

(ニ) 本件登録意匠においては、上カバー体の頂端は平坦にて成るに対し、イ号物件においては上カバー体の頂端には、中央に平面三分の一なる突起形状体が形成して成ること。

(ホ) 本件登録意匠においては、下カバー体はその最上端より全体の2・3の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体3・2の部位まで30度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体6・8の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成るに対し、イ号物件においてはその最上端より全体の1・1の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体7・7の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成ること。

(ヘ) 本件登録意匠においては、バルブボデイは円筒状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は円筒形状にて成り、下カバー体との取付部は短く袋ナツトと同高にて成るに対し、イ号物件においては該バルブボデイは略立方体形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は六角形状にて成り、下カバー体との取付部は内側の取付筒が長く外方に突出して成ること。

(ト) 本件登録意匠においては、切替レバーは飛行機の垂直尾翼に似た形状にて成るに対し、イ号物件においては切替レバーは中央部を穿つた特異な形状にて成ること。

(3) そこで、右共通点及び相違点から、本件登録意匠とイ号物件の類否判断をすると、

本件登録意匠とイ号物件との共通点である「浄水器は浄水器本体と切替バルブより成り、整水器本体は、上カバー体と下カバー体より成る」との構成は、物品の機能性より生じるものであつて、類否判断の対象が実用的効果を主眼としない意匠であることを鑑みれば、物品の機能性より生じる構成は類否判断の基礎とすることは出来ない。

また、本件登録意匠とイ号物件との共通点である「下カバー体の側壁部にして、吐水部との反対側には周面螺子孔付き筒状の接続部が突出せしめて成ること」及び「切替バルブは、三方に開口する略T字形状のバルブボデイと該バルブボデイに設けられた切替レバーとから成ること」の機能上より要求される形態は、従来より当業者間で慣用的に使われている普遍的なものであり、又かかる点に意匠としての創作性は感じられない。むしろ、切替バルブがいかなる形状をし、外観的形象になつているか否かが問題なのである。

一方、本件登録意匠においては、整水器本体の上カバー体と下カバー体は、高さ対比は7対3、高さ対横幅対比は2対1にて成るに対し、イ号物件においては高さ対比は6・5対3・5、高さ対横幅対比は3対2にて成ることにより、本件登録意匠のものが全体的にスマートな流暢感を呈せしめているに対し、イ号物件のものが全体的にドツシリとした安定感を呈せしめており、かかる上カバー体と下カバー体に高さ対比、高さ対横幅対比の比率相違は、物品の存在感を最も強くアピールさせるものであつて、看者に全く両者相違なる感覚を惹起させ、意匠的趣味感を別異のものとして認識させるものである。

また、本件登録意匠の上カバー体は、その最下端より全体の1・3の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いで全体1・7の部位まで45度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体7・9の部位まで84度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで55度の角度で内方テーパー線を形成するのに対し、イ号物件のものはその最下端より全体の1・9の部位まで上方直立状に形成すると共に、次いでやや内方位置より全体9・1の部位まで85度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで上端外線より大きく隔てた内方位置より全体9・7の部位まで23度の角度で内方テーパー線を形成し、最後に上端まで垂直線なる水抜き用エアーバルブを形成する。

従つて本件登録意匠においては、上カバー体の頂端は平坦にて成るに対し、イ号物件においては上カバー体の頂端には、中央に平面径三分の一なる突起形状体が形成して成り、又下カバー体については、本件登録意匠のものはその最上端より全体の2・3の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体3・2の部位まで30度の角度で内方テーパー線を形成し、又次いで全体6・8の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部を垂下突出せしめて成るに対し、イ号物件のものはその最上端より全体の1・1の部位まで上カバー体と同幅の下方直立状に形成すると共に、次いで全体7・7の部位まで垂直線を形成し、最後に下端まで正面左方部に筒状の吐水部垂下突出せしめて成り、明白に両者は形状を相違する。

そして、本件のような整水器、浄水器は昭和四〇年前半より集中的に開発され、各種の製品が市場に出回つたものであり、かかる点は本件意匠権出願前に登録された日本国特許庁発行の意匠公報を参照にしても数多くのものが存在する。

一般的に物品が斬新的であればある程、又市場にあまり出回つていないものであれば、その登録意匠の範囲は大きく解釈すべきと考えられるが、反面同種の物品が数多く出回つており、物品的斬新さが少なく、意匠の外面的形象の美感のみをもつて看者に購買意欲を増進せしめんとするものは、自ずから登録意匠の範囲は小さく限定的に解釈されることが経験則より明らかである。

更に、本件登録意匠においては、バルブボデイは円筒形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は円筒形状にて成り、下カバー体との取付部は短く袋ナツトと同高にて成るに対し、イ号物件においてはバルブボデイは略立方体形状に形成され、該バルブボデイの螺子頭部は六角形状にて成り、下カバー体との取付部は内側の取付筒が長く外方に突出して成り、又本件登録意匠においては、切替レバーは飛行機の垂直尾翼に似た形状にて成るに対し、イ号物件においては切替レバーは中央部を穿つた特異な形状にて成り、両者の意匠的感受性は全く異なつたものとして看者に惹起させるものであり、切替バルブの点においても両者は何等相紛れる恐れのない非類似意匠と判断すべきである。

次いで本件登録意匠においては、上カバー体は透明材質にてなり、イ号物件においては上カバー体、下カバー体とも表面を美麗なる銀色メツキした非透明材質にて成るので、この点についてみるに、一般的に物品の透明は、形状とも模様とも色彩とも捉えられていないが、意匠法では意匠を現わす物品に透明の箇所がある場合は、それを願書の「意匠の説明」の項に記載しなければならない(意匠法第六条第八項)と規定して、色彩に準じた扱いをし、意匠の同一性を判断する要素の一つとしている。

けだし、意匠が透明であるときは不透明の意匠とは全く異なつた美感を呈することがあり、登録範囲の認定にあつても重大な影響を及ぼすからである。

而して、イ号物件においては上カバー体、下カバー体とも表面を美麗なる銀色メツキした非透明材質にて成るので、美的処理の施こされた形状と色彩の結合意匠として看者に斬新さ、豪華さ、厳かさをアピールするものであるのに、本件登録意匠においては、上カバー体は透明材質にて成つているため、水道水特有のカルキ臭を消去したり、大腸菌その他の雑菌等有害物質を除去せしめるための整水用フイルターが使用の段階で表面汚染され、かかる整水用フイルターは上カバー体に内蔵されるものであることから、上カバー体を通して汚染された整水用フイルターが外部より直視され、一般家庭における水道蛇口部に本件登録意匠のものを取付すれば、特に清潔さ、奇麗さが最も要求される場所が甚だその目的精神を損失することとなり、表面が美麗なる銀色メツキした非透明材質にて成るイ号物件のものと比較して、看者に与える美的感覚は全く異なつたものとなり、本件登録意匠の様に用途が特に限定される物品においては、上カバー体及び下カバー体が透明であるか否か、美麗なる色彩が施されているか否かは意匠の類否判断において無視することの出来ない大きな要素と認めざるを得ず、かかる点に立脚すれば上カバー体、下カバー体の意匠法的色彩を大きく異にする本件登録意匠とイ号物件のものは、明白に意匠を相違すると認められる。

(4) 以上の点を総合的に考察すれば、本件登録意匠とイ号物件のものは、共通点を有することを否定できないとしても、相違点の占める割合が甚だ大であり、看者に与える審美感を全く異にするので、全体的に判断すれば両者は何等相紛れる恐れのない非類似意匠である。

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